安達正勝『死刑執行人サンソン』

死刑執行人サンソン ―国王ルイ十六世の首を刎ねた男 (集英社新書)
はい、荒木先生が広告で推してたから読んでみた本ですね。広告についてはこちら→id:vec:20040809#p2
高校では世界史選択で(結構頑張った)、大学は文学部史学科卒というべくですがフランス革命のこととかもうほとんど忘れてます(もったいない)。しかしそれゆえこの本はさらに面白く読めました。「ムッシュー・ド・パリ」*1の四代目を務めた男、シャルル・アンリ・サンソンの生涯を綴った内容です。死刑執行人への差別、偏見と戦いそれらが無くなる世の中をフランス革命に望んだものの、革命の先鋭化によって敬愛する国王ルイ16世を手にかけることになるサンソン。その数奇な運命とエピソードの数々にはすごく引き込まれます。あくまでも死刑執行人の観点からフランス革命を見ようとする歴史書なんだと思いますが、そこにあるドラマは純粋に面白い。あまり歴史に興味無い人でものめり込むように読めるでしょう。
やっぱり、国家の象徴でありごく自然に頂点に君臨する国王ルイ16世、「法の命ずる正義」の最後を担うことで社会の最底辺に立つ*2死刑執行人サンソン、ともに世襲である二者の対比がドラマチックです。さらに革命のさなかでの「ギロチン」の誕生から紡がれていくの運命の皮肉。知ってる人には常識なのかもしれませんがギロチンについても色々なエピソードがあって面白いですよ。
話の流れとしては世襲の処刑人としてのサンソン家の成り立ちが語られた後にいよいよシャルル・アンリ・サンソンの生涯なわけですが、処刑という物を軸に語っている構成上、サンソンの年齢が中年だったり若者だったりと前後するのが、彼について無知な人間が読み物として読むには少し分かりにくかったですね。でもこの時代の死刑執行、死刑制度を理解するには最適な構成でした。
ここからは、荒木ファンとして(脳内でサンソン像にジャイロをイメージしながら)読んだ感想。
スティール・ボール・ラン』で描かれた死刑執行人像がこの本を下敷きにしてることはまず間違いありませんね。10月にSBRが再開されるまでの繋ぎに読むには最適だと思います。*3人々からの偏見に耐えつつ毅然として己の職業の正統性を主張する姿勢、運命に翻弄され深く悩みながらも自らの血統を全うする姿勢、まさしく「ジョジョ」に通じる空気を感じました。また、執行人という職業の描写以外にも荒木漫画を連想する記述がいくつかあり。(以下一例。ネタバレ気味?)

  • 勢い処刑を手伝う事になった一般の若者の運命
  • ある女優の小間使いとして一緒にいただけで処刑される事になった少女*4、その処刑直前の態度

そして最後にあとがきを読んでいて、なぜ同じ集英社とはいえ荒木先生が推薦文を書くことになったのかが分かりました。(本の内容についてではないですが、以下重大なネタバレです!…気を遣うことでもないかもしれないけど)

この本は、集英社新書編集長の椛島良介氏の励ましがあって、なんとか書き上げることができたようなものである。

*1:パリの、ひいては国内の死刑執行人元締めみたいな感じ

*2:最底辺といっても暮らしぶりは悪いものではないですが

*3:って、以外と10月ってすぐですね早いなあ

*4:モロにマルコ少年のモデルでしょうこれは